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横浜地方裁判所 昭和47年(ワ)349号 判決

原告 榎本忠夫

原告 榎本ひろみ

右原告ら訴訟代理人弁護士 石塚久

望月千世子

百瀬和男

〈ほか六六名〉

被告 国

右代表者法務大臣 福田一

右訴訟代理人弁護士 柴田次郎

右指定代理人 寺島陽生

〈ほか六名〉

被告 神奈川県

右代表者知事 長洲一二

右訴訟代理人弁護士 山下卯吉

右指定代理人 平本利雄

〈ほか五名〉

被告 厚木市

右代表者市長 石井忠重

右訴訟代理人弁護士 矢島惣平

右訴訟復代理人弁護士 長瀬幸雄

主文

被告神奈川県は原告らに対しそれぞれ金六〇二万五一〇〇円およびこれに対する昭和四六年五月一七日から支払い済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

原告らの被告国、同厚木市に対する請求および被告神奈川県に対するその余の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用のうち、原告らと被告神奈川県との間に生じた分については被告神奈川県の負担とし、被告国、同厚木市との間に生じた分については原告らの負担とする。

この判決第一項は仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは連帯して原告らに対しそれぞれ金九五六万〇六八四円およびこれに対する昭和四六年五月一七日から支払い済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行の宣言。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

3  原告ら勝訴の場合、担保を条件とする仮執行免脱の宣言。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  事故の発生

原告らの長女榎本美保(昭和四一年一〇月五日生、以下美保という)は昭和四六年五月一七日午後五時四〇分ごろ、神奈川県厚木市山際九一七番地先の通称藤塚排水路(以下本件排水路という)に転落し、死亡した。

2  事故現場付近の状況

本件排水路は、神奈川県厚木市大字上依知、同下川入と同県愛甲郡愛川町大字中津に跨って造成された神奈川県内陸工業団地(以下本件工業団地という)の専用排水路となっているものであり、その幅員は約三メートル、深さは約一・八メートルである。本件工業団地から出た排水は本件排水路を通じて約七キロメートル東南方に流れ下り相模川に注いでいるが、本件事故現場付近においては、地形が崖状に急傾斜していることから排水の流速を緩和するため本件排水路には一〇段のダム式の減勢池(貯水槽)が設けられている。美保が転落したのは上流から数えて二番目の減勢池(以下本件減勢池という)内であり、その横巾は約一七メートル、縦巾は約一二メートル、水深は約一・三メートルである。美保は本件減勢池とその上流の減勢池との間に設けられたコンクリート製の突堤(犬走りともいう)に乗って遊んでいるうち誤って本件減勢池内に転落したものであり、水面からその転落地点までの高さは約七・八メートルであるが、減勢池内には水面から突堤あるいは地上までつかまって這い上がれるような物体は存しない。

3  本件排水路の管理上の瑕疵

(一) 本件排水路は昭和一七年ごろ、被告国が旧陸軍相模飛行場を建設した際、その専用排水路として設置されたものであるが、戦後、飛行場が廃止されその跡地が地元農民に払い下げられたのに伴い、本件排水路も無用となり放置されていた。その間、本件排水路内には土砂が堆積し、地元民が先を競ってこれを占拠し芋や野菜を栽培するようになったので、本件排水路は排水路としての形態を全く失うに至った。

(二) 被告神奈川県(以下被告県という)は、川崎臨海工業地帯等の造成、分譲だけでは企業の工場敷地の需要に対処できなくなったので、昭和三七年二月から同四一年三月にかけて前記飛行場跡地を買収したうえ、本件工業団地に造成し、九〇数社の企業に分譲した。その際、被告県は本件排水路を本件工業団地専用の排水路として使用することとし、被告国の承諾を得たうえ、全面的にしゅんせつ、改修して整備し、排水路として再生させたのである。その結果、本件排水路内には常時相当量の排水が流れ、とくに本件事故現場付近の減勢池は常に満水の状態におかれるようになり、危険な状態が現出した。

(三) 原告らの住居は本件事故現場から約四〇〇メートル距てたところにあり、本件工業団地の近くである。付近はかつては田園地帯であったが、本件工業団地が造成され、工場誘致が進むに伴い、これらの工場に勤務する者の住宅が建ち並んで新興住宅地と化し、付近の人口も著しく増大した。とくに本件工業団地内の工場に勤務する者の多くは他から移り住んで来た者であり、その年令も若く、その家族には幼子が比較的多い。しかるに、付近にはブランコ、滑り台、鉄棒などを備えた遊園地が一つあるだけで、ほかに子供に適した遊び場がない反面、近くを国道一二九号線が走っているため一帯に車両の往来がはげしく、車両に道路での遊びを妨げられた子供らは新しい遊び場を求めて奥地へと入り込む傾向にある。本件事故現場は、学童の通学路に当る市道から約一〇〇メートル奥地に入ったところにあり、そこに至る通路は整備こそされていないが、踏み固められて容易に通行可能な状態になっている。そして、原告ら方から右通路入口に至る市道の左右には人家が建ち並び、子供の往来も頻繁である。もっとも、本件事故現場は大人には無用の場所であり、付近に居住する大人の中には一度も本件事故現場に足を向けたことのない者も少くないが、右のような事情の下においては、本件事故当時、原告ら方付近に居住する子供らが自由で楽しい遊び場を求めて本件事故現場付近に出没するであろうことは通常の注意をもってすれば予想するに難くないところである。したがって、本件事故当時においては、立札や付近住民に対する回覧などによって事故現場付近の危険性を知らせる一方、現場には柵、鉄棒、金網等の防護設備を設けるなど、減勢池への転落事故の発生を防止するため万全の措置が講じられてしかるべきであり、これらの措置が講じられなかったのは本件排水路の管理上の瑕疵というべく、本件事故がこれに起因して生じたことは明らかである。

4  被告らの責任

(一) 被告国

(1) 前記のとおり、本件排水路は旧陸軍省が軍用地上に設置した国有財産であり、戦後、大蔵省に移管され、国有財産法第六条に基づき大蔵大臣がこれを管理している。したがって、被告国は国家賠償法第二条に基づき本件事故によって生じた損害を賠償する義務がある。

(2) 前記のとおり、本件排水路は被告国の所有であるから、仮に被告らのいずれもがこれを管理しているとは認められず、またはこれを管理する者が損害の発生を防止するに必要な注意をしたとされる場合には、被告国は民法第七一七条第一項に基づき本件事故によって生じた損害を賠償しなければならない。

(二) 被告県

(1) 本件工業団地の造成、分譲は地方自治法第二条第六項にいう地方の総合開発計画の策定、産業立地条件の整備等の一環として土地区画整理法に基づき多額の費用を投入して施行されたものであり、被告県の最重要施策の一つであった。そのため被告県は、本件工業団地の分譲に当っては相手方企業に対し相当期間内の操業開始や公害防止を義務付け、転売を禁止し、これに違反したときは、いつでも買戻権を行使できるなど、厳しい条件を付し、分譲後もこれらの条件を盾に本件工業団地全体について強力な行政上の監視、監督を続けてきた。本件排水路はその構造上および機能上、本件工業団地と不可分一体の関係にあるものであり、分譲後も被告県は本件工業団地全体に対する行政上の監視、監督の一環として本件排水路を事実上管理していたものである。したがって、被告県は国家賠償法第二条に基づき本件事故によって生じた損害を賠償する義務がある。

(2) 前記のとおり、被告県は昭和三八、九年ごろ、その費用で本件排水路を全面的にしゅんせつ、改修して整備し、排水路として再生させたのである。したがって、被告県は公の営造物の設置もしくは管理費用の負担者として国家賠償法第三条に基づき本件事故によって生じた損害を賠償する義務がある。

(3) 前記のとおり、被告県は、戦後土砂の堆積等により排水路としての形態を全く失った本件排水路を全面的にしゅんせつ、改修して整備し、排水路としての機能を回復させ、その結果、本件工業団地から出る多量の排水が本件排水路を通じて処理されるようになったのであるから、その時点で本件排水路は被告県によって新たに設置され、その管理下におかれるようになったというべきである。したがって、被告県は国家賠償法第二条に基づき本件事故によって生じた損害を賠償する義務があるというべく、その後、本件排水路の管理が被告厚木市(以下被告市という)に引き継がれたとしても、被告県は本件排水路の当初の設置、管理者としての責を免れない。

(三) 被告市

(1) 本件工業団地の造成が被告県の土地区画整理事業として施行されたものであることは前記のとおりである。本件排水路はそれにより設置された公共施設といえるから、土地区画整理法第一〇六条第一項に基づき換地処分の公告があった日の翌日である昭和四〇年六月五日以降被告市の管理に属するようになった。したがって、被告市は国家賠償法第二条に基づき本件事故によって生じた損害を賠償する義務がある。

(2) 仮に本件排水路が右土地区画整理事業により設置された公共施設とはいえないとしても、被告市は昭和四一年九月三〇日、被告県から本件排水路の管理を引き継いだ。したがって、被告市は国家賠償法第二条に基づき本件事故によって生じた損害を賠償する義務がある。

(3) 仮に右管理の引継ぎの事実が認められないとしても、被告市は地方自治法第二条第四項の「基礎的な地方公共団体」として、同条第三項第二号にいう「用排水路」を設置し、管理する事務を処理するものとされているところ、本件排水路は右にいう用排水路であることは明らかであるから、被告市がその管理責任を負うものである。したがって、被告市は国家賠償法第二条に基づき本件事故によって生じた損害を賠償する義務がある。

(4) 仮に右規定から直ちに本件排水路について被告市の管理責任が生じないとしても、本件排水路は本件工業団地およびその中の公共施設(排水路、暗渠等)とその構造上および機能上一体不可分のものであるから、本件工業団地内の公共施設の管理が被告県から被告市へ引き継がれると同時、すなわち昭和四一年九月三〇日以降自動的に被告市の管理に属することになったというべきである。したがって、被告市は国家賠償法第二条に基づき本件事故によって生じた損害を賠償する義務がある。

(四) 被告らの責任相互の関係

以上のような被告らの損害賠償義務は相互に不真正連帯の関係に立ち、したがって、被告らはそれぞれ本件事故によって生じた損害の全部を賠償しなければならない。

5  損害

(一) 美保の逸失利益

美保は昭和四一年一〇月五日生まれ(当時四才七か月)の健康な女子であったところ、昭和四八年簡易生命表によれば、その平均余命は六七・八七才である。したがって、本件事故がなければ、美保は満一八才から六七才に達するまで四九年間は稼働でき、その期間中通算して少くとも賃金センサス昭和四九年第一巻第一表、産業計、企業規模計、女子労働者平均賃金月額金七万五二〇〇円(年額金九〇万二四〇〇円)と年間賞与その他の特別給与額金二二万一六〇〇円、年間計金一一二万四〇〇〇円の収入を得ることができた筈である。そこで、右年間収入を基礎とし、右期間中の美保の生活費を収入の二分の一と推定し、ホフマン方式により年五分の割合による中間利息を控除して美保が右期間中に得るであろう純収入の現在価額を算出すると、その金額は金九九三万四四七四円である。そして、原告らは美保の両親として法定相続分に従い各その二分の一に当る金四九六万七二三七円ずつその損害賠償請求権を相続した。

(二) 原告らの慰藉料

原告らが最愛の長女美保を本件事故により失った精神的苦痛は筆舌に尽し難いが、これを金銭で慰藉するとすれば、その金額は各金三〇〇万円を下るものではない。

(三) 弁護士費用

原告らはその訴訟代理人に本件訴訟を委任し、その報酬としてそれぞれその請求金額の二割に相当する金一五九万三四四七円を判決言渡時に支払うことを約した。

よって、原告らは被告らに対し、連帯してそれぞれ右各損害金計金九五六万〇六八四円およびこれに対する本件事故発生の日である昭和四六年五月一七日から支払い済みに至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金を支払うべきことを求める。

二  請求原因に対する答弁

(被告国)

1 請求原因第1項の事実のうち、美保が原告ら主張の日に死亡したことは認めるが、その余の事実は不知。

2 同第2項の事実のうち、美保が転落した場所および転落の状況ならびに本件排水路および減勢池の幅員等の寸法は不知、その余の事実は認める。

3 同第3項中、

(一)の事実は認める。

(二)の事実のうち、本件工業団地を造成した際、被告県が本件排水路を全面的にしゅんせつ、改修して整備し、排水路として再生させたことは認めるが、それについて被告県が被告国の承諾を得たことは否認、その余の事実は不知。

(三)の事実のうち、本件減勢池付近に原告ら主張の防護設備が設けられていないことは認めるが、本件排水路について管理上の瑕疵があることは争う。被告県の後記主張のとおり、本件排水路については管理上の瑕疵はない。本件事故は、本件排水路の管理上の瑕疵に起因するのではなく、未だ是非弁別をわきまえない幼児を保護者も付けないで被告県の後記主張のような場所で遊ばせておいた原告らの監護義務の懈怠によって招来されたものである。

4 同第4項(一)中、

(1)の事実のうち、本件事故について被告国が国家賠償法第二条に基づく損害賠償義務を負うことは争う。原告ら主張のとおり、本件排水路は、一旦排水路としての形態を全く失ったあと、被告県が全面的にこれをしゅんせつ、改修して整備し、再生させたのであるから、被告県が新たに設置した公の営造物であり、被告国が設置し、管理する公の営造物ではない。また、本件排水路が被告国の所有であるとしても、それは被告国の普通財産であって公の営造物ではないから、その設置または管理に瑕疵があっても被告国は国家賠償法に基づく損害賠償義務を負うことはない。

(2)の事実のうち本件排水路が被告国の所有であることを除いてその余は争う。仮に本件排水路が被告国の所有であるとしても、その占有者である被告県または被告市が損害の発生を防止するに必要な注意をしたとは認められないから、本件事故によって生じた損害についてはまず、その占有者である被告県または被告市が賠償の責に任ずべきであり、被告国はその責を負わない。

ちなみに、本件排水路は地方自治法第二条第三項第二号にいう用排水路として、もしくは同条第六項第一号にいう公共施設として地方公共団体が管理すべきものである。

5 同第4項(四)は争う。

6 同第5項の事実のうち、損害の数額は争う。

(被告県)

1 請求原因第1項の事実のうち、美保が原告ら主張の日に死亡したことは認めるが、その余の事実は不知。

2 同第2項の事実のうち、美保が転落した場所および転落の状況は不知。本件排水路および減勢池の構造およびその幅員等の寸法ならびに本件排水路が本件工業団地の専用排水路であることは否認、その余の事実は認める。

本件排水路は摺鉢型になっており、その幅員は上面部において約三メートル、底面部において約二メートル、深さは約二・三メートルである。また、本件減勢池の底面部はコンクリート打設であるが、側面部(両岸)は丸石積固めになっており、その縦、横の巾は上面部において約一七・三メートル、底面部において約一〇・二メートル、水面から上面までの高さは約四・九メートル、水深は約一メートルである。原告ら主張の突提は左右両側から中央部に向って伸びており、その幅員は約六〇センチメートル、長さは左右それぞれ約二メートルである。

3 同第3項中、

(一)の事実のうち、本件排水路が原告ら主張のころ被告国(旧陸軍省)によって設置されたことは認めるが、その余の事実は否認する。

(二)の事実のうち、被告が本件工業団地を造成して分譲したこと、そのあと、本件工業団地から出る排水が本件排水路を通じて処理されるようになり、本件排水路内には常時相当量の排水が流れ、とくに本件事故現場付近の減勢池は常に満水の状態におかれるようになったことは認めるが、その余の事実は否認する。本件排水路は旧陸軍相模飛行場の専用排水路ではなく、付近の民家から出る排水や道路上に降った雨水も本件排水路を通じて処理されていた。本件工業団地を造成するに際し、被告県はその破損個所を改修することが、造成される工業団地のためはもとより付近の民家や道路のためにも適切な処置と考え、口頭で所管の大蔵省関東財務局横浜財務部の承諾を得たうえ、本件排水路のうち土砂の堆積している部分をしゅんせつし、破損個所を補修して排水の流れをよくしただけであって、その構造部分に変更を加えたものではない。

(三)の事実のうち、本件減勢池付近に原告ら主張の防護設備が設けられていないことは認めるが、本件排水路について管理上の瑕疵があることは争う。本件減勢池は市道から約一一〇メートル奥まったところにある。その間、市道から七〇ないし八〇メートルのところまでは幅員約三メートルの通路があるが、その周囲は広大な地域に亘って種苗地および桑園となっており、毎年五月ごろには右通路は左右から桑葉に被われ、トンネル状をなしている。それから先は草地であり、とくに本件減勢池に近い約二五メートルの区間には通路らしいものは全く見当らない。本件減勢池の周囲はうっそうとした樹木で被われており、藪をかき分けるようにしなければここに近づくことは困難である。また、付近には七〇ないし八〇メートル離れたところに人家が二軒あるほか、建物らしいものは見当らず、付近を通行する人影は稀にしか見られない。このように本件減勢池付近は成人でも特段の所用がない限り近づくところではなく、まして四、五才の幼児が遊びにくることなどとうてい考えられない。したがって、本件減勢池で本件事故が発生したことは通常発生すると予想される危険の範囲をはるかに超えるものであり、本件減勢池付近に原告ら主張の防護設備が設けられていなかったことをもって本件減勢池の管理上の瑕疵とはいえない。

4 同第4項(二)中、

(1)の事実のうち、本件工業団地を分譲した後も、被告県がその全体に対する行政上の監視、監督の一環として本件排水路を事実上管理していたことは否認する。被告県は昭和四一年三月本件工業団地の造成を完了し、昭和四二年一二月末までにこれを九四の企業に分譲した。その結果、各分譲地はそれぞれの企業の所有となり、被告県の管理するところではなくなった。また、団地内の道路、排水路等の公共施設は、土地区画整理事業の完了に伴う換地処分の公告があった昭和四〇年六月四日、土地区画整理法第一〇六条に基づき被告市の管理に属したので、被告県は昭和四一年九月三〇日、被告市に対し本件排水路を含めてその管理の引継ぎをした。

(2)は争う。本件排水路については被告県以外の国または公共団体がこれを設置もしくは管理し、被告県がその費用を負担するという法律上の関係はないのであるから、被告県が事実上その費用で本件排水路を補修したからといって、その管理上の瑕疵によって他人の蒙った損害につき賠償の責を負ういわれはない。

(3)の事実は否認する。前記のとおり、被告県は本件排水路のうち土砂が堆積している部分をしゅんせつし、破損個所を補修して排水の流れをよくしたにすぎないのであって、これを設置したわけではない。したがって、本件排水路は右改修工事の後も依然としてその所有者である国の管理下にあるものである。また、仮に右改修工事を施したことにより被告県が本件排水路について何らかの管理責任を負うに至ったとしても、前記のとおり、被告県は被告市に対してその管理を引き継いだ。

5 同第4項(四)は争う。

6 同第5項の事実のうち、損害の数額は争う。美保の逸失利益からは同女の死亡時から一八才に達するまでの養育料が差し引かれるべきである。また、弁護士費用は判決言渡時に支払うことを約したというのであるから、これについては判決言渡後でなければ遅延損害金は発生しない。

(被告市)

1 請求原因第1項の事実は認める。ただし、事故現場の地番が神奈川県厚木市山際九一七番地であることは争う。

2 同第2項の事実のうち、本件排水路が本件工業団地の専用排水路であることは認めるが、本件排水路および減勢池の構造およびその幅員等の寸法は否認、その余の事実は不知。本件排水路および減勢池の構造およびその幅員等の寸法は被告県の前記主張のとおり。

3 同第3項中、

(一)の事実は認める。

(二)の事実のうち、本件排水路が本件工業団地の専用排水路として再利用されるようになった後の本件排水路および減勢池の状態を除くその余の事実は認める。

(三)の事実のうち、本件減勢池付近に原告ら主張の防護設備が設けられていないことは認めるが、本件排水路について管理上の瑕疵があることは争う。この点に関する被告市の主張は被告国および被告県の前記主張のとおり。

4 同第4項(三)中、

(1)は争う。本件排水路は被告県が本件工業団地について施行した土地区画整理事業の対象範囲外の施設である。したがって、土地区画整理事業が完了し、換地処分の公告があったからといって、土地区画整理法第一〇六条により本件排水路が当然に被告市の管理に属するものではない。

(2)の事実は否認する。原告ら主張の日、被告市は被告県から国道一二九号線と本件工業団地との間に取り付けられた道路とともに、本件排水路のうちそれに併設されている部分のみについて管理の引継ぎを受けた。本件排水路のうち本件減勢池の下流に当る神奈川県厚木市山際一三一四番地先以東の部分は、土地区画整理事業完了後、一旦被告県から原木市入之藪土地改良区に移管され、被告市は昭和四四年六月同土地改良区からその移管を受けたが、本件排水路のうち本件減勢池を含む右両者の中間に当る部分については未だかつて何人からもその管理を引き継いだことはない。

(3)は争う。本件排水路は厚木市と愛川町の両行政区画に跨る本件工業団地の専用排水路であるから、元来、その維持管理は地方自治法第二条第六項第一号に基づき被告県が所管すべきものであり、本件排水路は同条第三項第二号に基づき被告市がその維持管理を所管すべき用排水路には当らない。

(4)は争う。

5 同第4項(四)は争う。

6 同第5項の事実のうち、損害の数額は争う。美保の逸失利益の算定についてはホフマン方式ではなく、ライプニッツ方式を採用すべきである。

三  抗弁

(被告ら)

仮に本件排水路について管理上の瑕疵があり、これによって生じた損害につき被告らに賠償責任があるとしても、原告らはその住居からさほど遠くないところに、本件減勢池があることを知っており、または十分に知り得る状況にありながら、美保の日常の動静に対する注意を怠り、かつて一度も同女に対し本件減勢池付近が危険な地域であることを教え、近寄らないよう注意したことはないのであるから、本件事故については原告らも過失責任を免れないものというべく、損害額の算定に当ってはこのことを十分に斟酌すべきである。

四  抗弁に対する答弁

否認する。仮に本件事故について原告らにも被告ら主張のような過失責任があるとしても、加害者である被告らが強力な行政主体である国および地方公共団体であるのに対し被害者である美保がその国民であり、かつ住民であるか弱い幼児であることを考えれば、損害額の算定に当り、原告らの過失を斟酌するのは相当でない。

第三証拠《省略》

理由

一  原告ら夫婦の長女美保(当時四才七か月)が昭和四六年五月一七日午後五時四〇分ごろ、神奈川県厚木市山際九〇五番地五付近の本件排水路に転落し、死亡したこと(ただし、このうち事故現場付近の地番を除くその余の事実は原告らと被告市との間で、美保が死亡したことは原告らと被告国、同県との間でそれぞれ争いがない)は《証拠省略》によって明らかである。

二  《証拠省略》を総合すれば、(1)本件排水路は主として神奈川県厚木市上依知、同下川入と同県愛甲郡愛川町大字中津に跨って造成された本件工業団地から出る排水を処理するためのものであって(ただし、この点は原告らと被告国との間では争いがない)、その構造は摺鉢型をしており、幅員は上面部において約三メートル、底面部において約二メートル、底面部はコンクリート打設であるが左右両側壁は丸石積固めであること、(2)本件工業団地から出た排水は本件排水路を通じて東南方に約七キロメートル流れ下り相模川に注いでいるが、本件事故現場付近においては、地形が崖状に急傾斜していることから排水の流速を弱めるため一〇段のダム式の減勢池(貯水槽)が設けられており、本件減勢池は上流から数えて二番目に当ること(ただし、この点は原告らと被告国、同県との間では争いがない)、(3)別紙図面のとおり、本件減勢池は排水路の他の部分同様摺鉢型をしており、その幅員(横巾)は上流にある減勢池との仕切り壁付近で上面部約一七・三メートル、底面部約一〇・二メートル、長さ(縦巾)約一〇・三メートル、仕切り壁から底面部までの深さ約四・一メートル(このうち水深は約一メートル)、底面部はコンクリート打設であるが、四方の側壁は丸石積固めであり、上流の減勢池との間の仕切り壁上には左右両側から幅員約六〇センチメートル、高さ約一・八メートル、長さ約五メートルの突堤(犬走り)が中央に向って伸びていること、(4)美保は下流に向って右側の突堤にのぼり、数人の仲間とともに本件減勢池に向って石投げ遊びをしているうち他の子供と衝突し、そのはずみで本件減勢池内に転落したこと、以上の事実が認められる。

三  そこでまず、本件排水路につき管理上の瑕疵があるか否かについて検討するに、《証拠省略》を総合すれば、次の事実が認められる。すなわち、

1  本件排水路は昭和一七年ごろ、被告国(旧陸軍省)が陸軍相模飛行場を建設した際、その専用排水路として設置されたものであるが(ただし、この点は原告らと被告県との間では争いがない)、戦後、右飛行場が廃止され、その跡地が地元農民に払い下げられたのに伴い、本件排水路も無用となり放置されていた。その間、本件排水路内には次第に土砂が堆積し、地元民の中には先を競ってその一部を耕作し芋や野菜を栽培する者もあり、本件排水路はその機能を全く喪失するに至った(ただし、以上の点は原告らと被告国、同市との間では争いがない)。

2  被告県は予てから川崎臨海工業地帯の造成に力を入れ、工場敷地の需要に対処してきたが、県内陸部の地域開発の推進を求める地元の要望に応え、昭和三六年から同四二年の間に右飛行場跡地を買収したうえ、土地区画整理法に基づく土地区画整理事業の一環としてこれを本件工業団地に造成し、九四の企業に分譲した(ただし、この点は原告らと被告県、同市との間では争いがない)。その際、被告県は本件工業団地から出る排水の処理施設として活用するため、昭和三七年ごろ、本件排水路内に堆積していた土砂をしゅんせつし、丸石積みの破損個所やコンクリートの剥離部分を補修するなどして本件排水路を全面的に整備し、その機能を回復させた(ただし、この点は原告らと被告国、同市との間では争いがない)。その結果、本件工業団地内に建設された工場が操業を開始した昭和四一年ごろから本件排水路内を本件工業団地から出た排水が流れるようになり、これに近隣の民家から出る排水や道路上に降った雨水の一部も加わって本件排水路内は常時相当量の水量があり、本件減勢池内にも深さ約一メートルにのぼる排水が溜まるのが常態となった(ただし、この点は原告らと被告県との間では争いがない)。

3  本件減勢池は市道から東方へ約一一〇メートル奥まったところにあり、その間には一本の狭い農道が通じているだけである。農道の周囲は桑畑や雑木林に囲まれており、毎年春から秋にかけて農道は左右両側から延びた雑草や樹木に被われ、一見してその位置がわからず、雑草等をかき分けるようにしなければ歩行困難な状態を呈している。本件減勢池は減勢池地帯の入口に架けられた幅員約一メートルのコンクリート製の橋から農道を一〇メートル、さらに上流から数えて一番目の減勢池横の松林の中を一〇メートルほど進んだところにあり、その周囲は桑葉や樹木に被われ、七〇ないし一〇〇メートル距てたところに二、三軒の人家があるほか、近くに人家と目されるものはなく、農道を通行する人影も稀にしか見られない。

4  原告らの住居は右農道が市道と交わる地点から市道を東北方へ約二四〇メートル進行したところにあり、本件排水路とその西北方の本件工業団地との中間地点よりやや東方へ寄ったところに位置している。付近はかつては田園地帯であり、人家も比較的疎らであったが、本件工業団地が完成してからは団地内の工場に勤務する者の住宅がつぎつぎと建ち、にわかに付近の人口が増大した。これらの者は比較的年令が若く、その家族の中には幼児も少なくないが、近くを国道一二九号線が走り付近の車輛の交通量も多いのに、付近にはブランコ、すべり台等を備えた小規模な遊園地が一つあるだけで、ほかに子供の遊び場に適した場所は見当らない。前記減勢池地帯はこれら新しい住民には余り知られておらず、子供の遊び場となっていたわけでもないが、前記の市道は学童の通学路にも当っており、付近の子供の中には好奇心や冒険心にかられてここに遊びにくる者もないではなかった。

5  しかし、右減勢池地帯には人の立入りを禁止しあるいは転落事故の発生を防止するための鉄線、柵、金網等の防護施設は設けられておらず(ただし、この点は当事者間に争いがない)、転落した場合、減勢池内には水面から突堤あるいは地面までつかまって這い上がれるような物体も存しない。

以上の事実が認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

右認定の事実によれば、被告県が本件排水路を改修して整備しその機能を回復させた昭和三七年当時はもとより本件事故当時においても前記減勢池地帯に人影を見ることは稀有のことであり、その周辺が子供の遊び場になっていたわけではないが、そこから西方へ約一一〇メートル距てたところの市道は学童の通学路に当っており、前認定のとおり、右減勢池地帯はその地形、環境、設備等からして子供の好奇心や冒険心を誘い易い反面、子供が近づけば転落する危険も多分にある場所柄であることは疑いない。のみならず、本件工業団地内の工場が操業を開始した昭和四一年ごろから近辺の人口がにわかに増大し、本件事故当時においては、現に付近の子供の中には右減勢池地帯の周辺に遊びにくる者もないではなかったのであるから、少なくともこのような状態に達した段階では、本件排水路の管理者は右減勢池地帯の周辺に人の立入りを禁止しあるいは転落事故の発生を防止するため鉄線、柵、金網等の防護施設を設置して転落事故等の発生を未然に防止する措置をとるのが相当であったということができる。したがって、本件事故当時、本件排水路について右のような措置がとられなかったのはその管理上の瑕疵というべきであり、このような措置がとられていれば、美保が本件減勢池内に転落して死亡するという事態は生じなかったことが明らかである。

四  すすんで、右瑕疵による損害につき被告らに賠償責任があるか否かについて判断する。

1  被告国の関係

(一)  まず原告らは、国家賠償法第二条に基づき被告国に右損害の賠償責任があると主張する。

しかしながら、本件排水路が被告国の所有であることは弁論の全趣旨によって明らかであるが、本件排水路は、戦後、陸軍相模飛行場が廃止され、その跡地が地元農民に払い下げられたのに伴い無用となって放置され、その機能を全く喪失するに至ったことは前認定のとおりである。これによれば、本件排水路は戦後は被告国の普通財産としてその管理下にあったものというべきであり、被告県が本件排水路を改修して整備し本件工業団地から出る排水の処理施設に供するについて、被告国は被告県にこれを無償で貸与したか、あるいは被告県のこのような措置を黙認したに止まり、自ら本件排水路を公共の用に供したものではないのである。したがって、本件排水路は被告国の管理下にある公の営造物とはいえないから、その管理上に瑕疵があるからといって、被告国が国家賠償法第二条に基づく損害賠償責任を負うものではない。

(二)  次に原告らは、民法第七一七条に基づき被告国に右損害の賠償責任があると主張する。

しかしながら、民法第七一七条に基づく所有者の賠償責任はその占有者が同条に基づき免責される場合に認められる第二次的責任であって、後述のとおり、本件においては本件排水路の管理(占有)者である被告県について右損害の賠償責任が認められるので、被告国についてその所有者としての賠償責任を認める余地はない。

2  被告県の関係

戦後、陸軍相模飛行場が廃止されたのに伴い長期間荒れるがままに放置され、その機能を全く喪失した状態にあった本件排水路を、被告県が改修して整備し、その機能を回復させ、本件工業団地から出る排水の処理施設に供したことは前認定のとおりである。これによれば、本件排水路は被告県が設置したものであってその公の営造物と認めるのが相当であり、その後、本件排水路が国もしくは被告県以外の公共団体に移管された事実がない限り、本件排水路は依然として被告県の管理下にあるものというべきである。被告県は、その主張の日に被告市に対し本件排水路を移管したと主張するが、これに副う《証拠省略》と対比してにわかに採用できず、また、《証拠省略》の存在だけからでは直ちに右事実を認めることは困難であり、ほかにこれを認めるに足りる証拠はない。したがって、被告県は国家賠償法第二条に基づき本件事故によって生じた損害を賠償する義務がある。

3  被告市の関係

(一)  まず原告らは、土地区画整理事業が完了し、換地処分の公告があったことにより土地区画整理法第一〇六条に基づき本件排水路が被告市の管理に属することになったと主張する。

しかしながら、本件工業団地が土地区画整理法に基づく土地区画整理事業の一環として造成されたことは前述のとおりであるが、本件排水路敷地が右土地区画整理事業の施行対象区域に含まれていないことは前認定の事実に徴して明らかである。したがって、本件排水路は右土地区画整理事業の施行対象区域内の公共施設とはいえないから、土地区画整理事業が完了し、換地処分の公告があっても、土地区画整理法第一〇六条に基づき本件排水路が当然に被告市の管理に属するものではない。

(二)  次に原告らは、その主張の日に被告市が被告県から本件排水路の移管を受けたと主張するが、これを認めるに足りる証拠がないことは前述したとおりである。

(三)  また原告らは、被告市には地方自治法第二条第三項第二号により本件排水路を管理する義務があると主張する。

しかしながら、前認定の事実によれば、本件排水路が地方自治法第二条第三項第二号にいう用排水路に該当することは明らかであるが、国または都道府県の設置にかかる用排水路については、その後、その管理が市町村に移管されるなど特段の事情がない限り、右規定に基づき当然に市町村が当該用排水路につき管理義務を負うものと解することはできない。

(四)  さらに原告らは、本件排水路は本件工業団地内の公共施設と一体不可分のものであるから、右公共施設が被告県から被告市に移管されたのに伴い、本件排水路も当然に移管されたと主張する。

しかしながら、本件排水路は右公共施設と有機的関連を有するにしても、これとは別個のものであるから、右公共施設が被告県から被告市に移管されたからといって、本件排水路も当然に移管されたと解することは困難である。

五  次に本件事故によって生じた損害について判断する。

1  美保の逸失利益

《証拠省略》によれば、美保は、本件事故当時満四才七か月の健康な幼女であったことが認められる。原生省発表の昭和四八年簡易生命表によると、美保と同世代の女子の平均余命は六七・八才であるから、美保が生存していれば、ほかに特段の事情が認められない限り、美保は一八才から六七才まで四九年間は稼働できるものと推認される。そして、美保が一八才に達する時期に最も近い統計資料である昭和五〇年賃金センサスによると、産業計、企業規模計、女子労働者一八ないし一九才の年間平均収入は毎月きまって支給される現金給与額金七万二九〇〇円の一二か月分と年間賞与その他特別給与額金一二万二三〇〇円を合計した金九九万七一〇〇円であり、一方、美保の生活費はその収入の五割とみるのが相当であるから、これを減ずると、その年間純収入は金四九万八五五〇円となる。そこで、これを基礎とし、ホフマン方式により年五分の割合による中間利息を控除して、美保が右期間中に得るであろう純収入の死亡時の現在価額を算出すると、その金額は次のとおり金八八一万二八〇〇円である(なお、被告市は美保の逸失利益の算定に当ってはホフマン方式ではなくライプニッツ方式を採用することを、また被告県は、美保の逸失利益からは同女が一八才に達するまでの養育費を控除すべきことを主張するが、前述のとおり、右逸失利益の算定の基礎となる年間収入を美保が稼働を開始するとみられる一八才時の金額に固定し、昇給、ベースアップ等その後の収入の増大を見込まない方法をとる場合には、右各被告の主張によらなくとも、その金額が妥当性を欠くとは考えられない)。

年間純収入金498,550円×ホフマン係数17,677-金8,812,800円(百円未満切捨)

(過失相殺)

ところで、損害の公平な負担という過失相殺制度の趣旨に照らせば、国家賠償法に基づく損害賠償についても被害者に過失がある場合にはその損害額を算定するうえでこれを斟酌するのが相当である。これを本件についてみるに、《証拠省略》によれば、原告ら夫婦、ことにひろみは地元の出身者で、予てから本件事故現場付近が減勢池地帯となっていることを知ってはいたが、僅か四才七か月の美保がここまで遊びにくるとは予想だにしなかったため、かつて一度も美保に対しこの付近が危険な場所であることを教え、近づかないよう注意するなどしたことはなかったことが認められる。しかしながら、四、五才の幼児は未だ是非の弁識能力に乏しい反面、その行動は自由かつ活溌であり、時として大人の予想もしないような危険な行動に出でることもないではない。のみならず、前述のとおり、右減勢池地帯は原告ら方から比較的近く、四、五才の幼児の足でも容易にいくことのできる場所であり、現に付近の子供の中にはそこまで遊びにいく者もないではなく、またその周辺は危険な状態にあるのであるから、原告らとしては、美保に対し常々減勢池地帯などに近づかないよういい聞かせるなど適切な監護上の措置をとっておくべきであって、これを怠った点に原告らにも監護者としての過失があるというべきである。そして、前認定の事実関係に徴すれば、その過失割合は被告県の八に対し原告らの二とみるのが相当であるから、右損害額から二割を減ずると、その残額は金七〇五万〇二〇〇円である。

(相続)

原告らが美保の両親であることは前認定のとおりであるところ、ほかに特段の事情がない限り、原告らは美保の死亡に伴いその法定相続分に則り右逸失利益の賠償請求権をその各二分の一の割合に当る金三五二万五一〇〇円ずつ相続により承継したものというべきである。

2  慰藉料

本件事故の状況、美保の年令、原告らとの身分関係、本件事故については原告らにも美保の監護者としての注意を怠った過失があることなど、諸般の事情を考慮すると、本件事故のために美保を失ったことによって蒙った原告らの精神的苦痛に対する慰藉料は原告らそれぞれにつき金二〇〇万円とするのが相当である。

3  弁護士費用

本件事案の内容、訴訟の経過および請求の認容額等審理に顕れた諸般の事情に鑑みると、本件事故と相当因果関係のある損害として被告県に請求できる弁護士費用は本件事故当時の現在価額で原告らそれぞれにつき金五〇万円とするのが相当である。

六  よって、その余の点に触れるまでもなく、原告らの本訴請求は被告県に対し、それぞれ右各損害計金六〇二万五一〇〇円およびこれに対する本件事故発生の日である昭和四六年五月一七日から支払い済みに至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるからその範囲で正当としてこれを認容し、被告国、同市に対する請求および被告県に対するその余の請求は失当としてこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九二条但書、仮執行の宣言につき同法第一九六条第一項を適用して主文のとおり判決する。

なお、仮執行免脱宣言については事案の性質上相当でないと認めてこれを付さないこととする。

(裁判官 大塚一郎 裁判長裁判官石藤太郎および裁判官森真二は転任につき署名押印できない。裁判官 大塚一郎)

〈以下省略〉

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